玄関土間の使い方
日本の住宅の玄関には、土間が必ずあります。床面積を倹約する為、マンションのような、必要最小限の土間が設けられた戸建て住宅も少なくありません。ただ、玄関は家族が出入りをするだけではなく、家の顔でもあります。使い勝手の良い玄関は、家族の暮らしを豊かにし、ゆったりとした土間のある玄関は、住宅に風格を生み出します。
2つの動線を作る
玄関内に、家族用の動線と来客動線を作ることで、すっきりと見栄えの良い玄関の印象が調います。家族用のスペースには、収納を設けることで、玄関内だけではなく、家の中全体を片付けやすくできます。
この施工例では、家族用動線上に、洗面台が設けられていて、帰宅時の衛生管理にも配慮されています。
シューズクロークを設ける
森の木々に包まれているような温かさを感じる家 浜松市北区 J様邸 |
二世帯住宅や、大人数で暮らす家族は、靴や、玄関に収納したい物の数が多く、玄関には、十分な収納量のあるスペースが必要です。特に二世帯住宅の場合、親世帯がお客様を招きたくても、子世帯の靴や外遊びの道具などで、いつも玄関が散らかっていると、ストレスになってしまうことがあります。
シューズクロークは、靴のまま立ち入れる大型のファミリークローセットとして役立つ玄関の土間収納です。家族の人数に合わせたサイズにすることで、常に玄関をすっきりさせられます。
シューズクロークには、ウォークインタイプとウォークスルータイプがあります。2つの動線を作る場合には、ウォークスルータイプが使いやすい収納です。玄関からリビングまでの通路が収納になっているので、靴や上着を収納してからリビングに入れます。空気が常に流れているので換気が良く、湿度によるカビやニオイなどが防げます。
ウォークインタイプは、出入り口があるので、内部への視線が気になりません。ただ、出入り口のタイプによって使い勝手が変わります。引き戸には、荷物を抱えている際に、ドアを押さえている必要がない、開く幅を調整して風を通せるという良さがあります。しかし、引き戸の横の壁に、引き戸を引き込むだけの幅が必要です。
扉には、内部への視線をシャットアウトできるという良さがありますが、内部に窓を設けないと、換気が悪くなる恐れがあります。また、扉の前方にデッドスペースが生まれてしまう恐れがあります。玄関と玄関ホール、隣接するリビングなどの居室との間取りを作成していく際に、間取りに無理がなく、家族の使いやすさに繋がるタイプを選ぶことが大切です。
どちらのタイプの場合も、部屋として使うこともできます。室内では汚れが気になる作業や、自転車やスポーツ用品の手入れをするという趣味の空間としての使い方をしたり、姿見を置いて、外出前の身支度を整えるという日々の暮らしに役立つ空間としての使い方をしたりと、家族のアイデイア次第で、様々な使い方ができます。
内部に窓があると、自然光が入るので、外出前の身支度の仕上げを、外に出た時の色味で確認できます。家の中では、良い配色だったのに自然光の中では映えない色だった、メイクが不自然だったというような失敗を避けられます。
通り土間の使い方
通り土間は、玄関から勝手口を結ぶ廊下のような役割をする土間のことです。もともとはウナギの寝床のような土地に建つ細長い京都の町家で、採り入れられていた間取りです。
間口が狭く、奥行きの長い敷地に建つ家の持つ、家の中心部に陽射しが届きにくい、玄関からキッチンへの移動がしにくいといった暮らしにくさを改善する為です。加えて、帰宅した際に履きものを脱がずに、勝手口まで行けるので、買い出ししてきた食料品をそのまま、キッチンに運び込める便利さがあります。
この通り土間を現代に暮らしに採り入れる場合、リビングと繋げるという使い方が考えられます。リビングと庭を融合させる方法として、ウッドデッキや、テラスを設ける方法もありますが、土間を設けて、庭と繋がる暮らしを生み出す方法もあります。
庭で遊んだ子どもの泥汚れを落とす、家庭菜園で収穫した泥付き野菜を仮置きする、散歩から帰った時に犬の足をきれいにするなど、外での履物のまま入れるので便利です。
この施工例では、玄関とリビングを繋ぐ土間の奥に収納があり、どちらから家に中に入った場合でも、リビングの入る前に、上着などをしまえます。花粉の季節には、衣類についた花粉をリビングに持ち込まずにすみます。
キッチン土間の使い方
キッチン土間には、キッチンに繋がる勝手口を土間にする方法と、キッチンとダイニングを土間にする方法があります。
キッチンに繋がる勝手口を土間にする方法
勝手口には、土間を設けない間取りもありますが、ごみや、泥付き野菜の仮置きができるので、勝手口にも土間があると便利です。勝手口→ウォークインタイプのパントリー(土間収納)にするという間取りも考えられます。この場合、駐車・駐輪スペースから勝手口までの導線が確保されていると、キッチンへの食料品の搬入が楽にできます。
土間ダイニングキッチンにする方法
リビングから一段低くして、ダイニングとキッチンを土間にする間取りです。この間取りは、古民家などにも見られる間取りで、農家では一般的でした。キッチンは、調理中に野菜くずなど食材を落としてしまうことがありますが、水で洗い流せる土間は、清潔に保ちやすい良さがあります。加えて、調理中に火が燃え移ってしまっても、土間なら燃え広がりにくいという生活の知恵もあったのではないでしょうか?
現代に暮らしにおいても、土間のダイニングキッチンには、暮らしを豊かにする魅力があります。掃き出し窓を介して、庭と繋がっているため、食事中に庭の樹木や草花など、庭の景観を楽しめます。春から秋にかけては、窓を全開にすることで、アウトドアダイニングのような雰囲気が楽しめます。
冬は薪ストーブでの楽しみが拡がります。日常的にも、ちょっとした集まりにも、薪ストーブでスープをコトコト煮たり、ピザを焼いたりすることが、暮らしに彩りを加えてくれます。土間は、一段下がっている分、冬は冷えます。ただ、薪ストーブがあれば、冬でも暖かく過ごせることに加えて、洗い流せる床なので薪や、煤の汚れも気になりません。
土間は冷気と湿度に注意が必要
土間は使い方によって、便利な空間にも、楽しみの為の空間にもなりますが、家を冷やす、湿度が高くなるという側面もあります。一段下がっていることに加えて、木材や畳に比べると冷えやすいタイルや三和土、コンクリートなどを使うからです。
広い土間があっても冷えない家にする為には、住宅の高い断熱性能が求められます。また、土間は、床に使う素材によっては、結露が発生する恐れがあります。結露は、住宅の寿命に影響を与えるので、発生させないようにしなくてはなりません。その対策として、珪藻土や木材など、湿度を吸収しやすい壁にする、窓や間取りで風通しを確保するといったことが必要です。洗面所の勝手口に土間を設け、洗濯物を干すというような使い方をする予定である場合には、より換気が大切です。
パッシブエアコンなどの全館空調を採り入れると、冬は暖かい空気、夏は涼しい空気が循環し続けます。パッシブデザインの家に広い土間を設ける計画には、パッシブエアコンが、土間の冷気と湿度の問題を解決します。
土間は、家族の使い方次第で、様々な顔を見せてくれます。家づくりには、家族の暮らしにあった使い方のできる土間計画を加えませんか?