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法定耐用年数と住宅の寿命の違い
日本の法律には、建物の年数に応じて変化する価値を表す基準として耐用年数という用語を使っています。法定耐用年数においては、良質な建材を使って丁寧に建築された家も、低品質な建材を使い、構造計算をせずに建てられた家も、等しく築年数で評価されます。
木造建築の住宅に対しては22年が耐用年数として定められているため、22年を過ぎると、資産価値が大きく低下します。しかし、資産価値の低下=劣化した住宅ではありません。木造住宅は建て方によって、劣化の度合いが変わってくるからです。
ただ、22年過ぎると資産価値が低下することから、木造住宅の寿命は短いと思い込む人が多いのではないでしょうか?同時に、実際に、数十年で建て替えが必要になるケースについても確認していきましょう。
住宅性能の低い住宅が多かった時代がある
築年数の長くなった家の中には、現在求められているような冬の室内環境の快適さと、大きな地震に耐えられる力が十分ではない家があります。その為、構造部の寿命はまだまだ続く状態であっても、季節に応じた室温を維持できる家、大地震が発生しても安全な家を求め、建て替えをするケースは少なくありません。その時期がちょうど、住宅ローンを払い終わる頃に重なることが多いのではないでしょうか?
断熱性
昭和から平成にかけての時代には、現在のように断熱性を高くするということが、住宅を建てる上で重要視されていませんでした。もともと日本の家は、夏を涼しく過ごす、通気性を高めて木材の腐朽を防ぐという考え方で建てられてきました。季節ごとの自然を受け入れて暮らす家です。その為、その時代には、ここ数十年で著しく進歩した住宅の断熱性を高める建築方法が確立されていませんでした。
加えて、近年の国の方針で、家庭での省エネの為、住宅の断熱性を高めることが求められていることから、断熱住宅の新築や断熱住宅へのリフォームが推奨されています。まだまだ住める家ではあるが、冬は寒く、夏は暑いという室内の環境を快適にするため、そして省エネできる家にする為に建て替えを考える人もいます。
■ 暮らし始めてからの家計に優しく快適な家にする為には、どのように家づくりを進めるべきなのでしょうか?省エネ住宅とはどんな家なのでしょうか?
→ 関連記事:コラム 省エネ住宅とは理想の暮らしができる家?
耐震性
耐震基準も今ほど厳しくなかった為、耐震性が低い住宅も少なくありません。現在の耐震基準は、新耐震基準という耐震基準です。今までに発生した大地震後に、毎回、綿密に行われた調査の結果を受け、大地震ごとに改正が繰り返されてきた中の最新の耐震基準です。
新耐震基準は、1981年に改正された建築基準法が基となっています。その後も改正は繰り返されているため、築年数の浅い住宅ほど、法改正の結果を満たす住宅であるとも考えられます。
従って改正が行われた1981年6月1日以前に建てられた家は、きわめて耐震性が低い住宅です。ただ、平成や令和になってからも、構造計算をせずに建築されている木造住宅も存在します。耐震基準が厳しくなっているとはいっても、構造計算が義務化されていないからです。
建築基準法で定められている耐震基準には、構造計算が含まれていないのです。その為、まだまだ住める家ではあるが、地震への不安から建て替えを計画する人もいます。
参考サイト 国土交通省 住宅・建築物の耐震化について
■ なぜ、揺れが抑えられるはずの木造住宅が、数多く倒壊してしまったのでしょうか?
→ 関連記事:コラム 新築時に検討するべき木造住宅の耐震対策
間違った断熱施工が行われた時期がある
近年、エネルギーを節約する為の動きが活発になり、家庭でのエネルギーも節約しようという考え方が、家づくりにも影響を与えてきました。しかし、不十分な技術と知識で断熱住宅を建てようとしたため、内部結露が発生してしまった家が多発した時期がありました。
もともと日本の住宅は、湿度の高い気候に対して、木材の腐朽を防ぐ為の対策が講じられた家でしたが、その良さが失われてしまった時期とも言えます。日本の家は、木材だけではなく、畳、塗り壁、瓦、和紙など、呼吸する建材で作られていたことや、窓が多く家中を風が吹き抜ける間取りであったために、優れた通気性を備えていました。
ところが、石油由来の建材が使われるようになり、居室を細かく区切る間取りが増え、通気性は著しく低下しました。空気環境もシックハウス症候群を引き起こすこともあったほど、よくはありませんでした。
さらに、断熱性を高めるという動きが急激に進んだため、間違った施工方法で断熱性を高める家も建てられてしまったのです。間違った施工法で断熱性能を高めた家では内部結露が発生します。
そのような家では、構造部が腐朽してしまう為、耐震性が低下します。それどころか、新築から数年で地震が発生したわけでもないのに、床が抜けてしまうというような住宅が、世間を騒がせたこともあります。このような、木材が腐朽してしまう住宅は、本来の木造住宅の寿命とは全く異なった年数で寿命を迎えてしまいます。
参考資料 日本木材学会北海道支部研究会 ナミダタケとどう闘うか-ナミダタケの生理と防除
■ 戸建て住宅での家づくりを計画されるご家族の多くは、木造住宅で建てることを計画されていらっしゃるのではないでしょうか?その家づくりの際に、非常に重要なことは、湿気対策の講じ方です。新築時の湿気対策が不十分な住宅は、早く劣化して耐久性が低くなり、地震に弱い家になるとともに、家族の健康を守れない家になってしまいます。
→ 関連記事:コラム 木造住宅は湿気対策が家族の安全と快適を大きく変える
暮らしの変化に対応できない住宅は居住できる年数が短い
家は長く住む所です。子育てに備えて家を建てた若いご夫婦には、子供の成長に伴い、小さな暮らしの変化を繰り返しながら、長い間には大きな暮らしの変化が複数回訪れます。子どもが成長し独立していく、結婚した子供家族と同居する、現役からリタイアする、伴侶を亡くすなどの大きな変化です。
暮らしの変化は、暮らしやすい間取りの在り方も変化させます。下の子供の誕生に合わせて子供部屋が必要になる、子供が成長し持ち物が増えて収納スペースが足りなくなる、子どもが独立していき2階の部屋を持て余す、結婚した子供家族と同居するには部屋数が足りない、高齢になりバリアフリーの家が必要になるというような問題が発生した時、手軽なリフォームで暮らしやすい間取りに変更できない家は、居住できる年数が短い家です。
これは構造部がしっかりしていて、また住める中古住宅が放置されている理由の一つでもあります。その為、物理的な耐用年数はまだまだ長いのに住めない家になってしまい、建て替えをする人がいることも、寿命の短さと捉えられてしまうこともあります。
100年の寿命を持つ木造住宅に必要なこと
木造住宅は本来、寿命の長い住宅です。実際に100年以上維持されている木造住宅も存在します。100年の寿命を持つ木造住宅にする為には、暮らしやすさと住宅の性能が同時に実現されていることが求められます。
暮らしやすさが続く間取り
一時期多く見られた個室を細かく区切る間取りの家には主に2つの難点があります。ひとつは暮らしの変化が起きた時に、手軽なリフォームで暮らしやすい間取りに変化させられないことです。もう一つは家の中の空気が循環しにくいことです。
軸組工法の木造住宅は、ツーバイフォーの住宅に比べて新築時もリフォーム時も間取りの自由度の高さがあります。その為、居室が細かく分かれている間取りであっても、リフォームはできます。ただ、将来的な変化を見越した設計にしておかないと、費用が嵩んでしまうのです。
子供の成長に応じて子ども部屋を増やすというようなリフォーム時には、まだ住宅ローンを返済しているご家庭も多いでしょう。そのような時に高額なリフォーム費用がかかってしまうのは避けたいことです。新築時から将来の変化を見越して、手軽なリフォームで対応できるような設計にしておくことが、住宅の寿命を延ばします。
断熱性
日本の住宅は木材を守る為に通気性に重きを置いた住宅だった為、冬は寒い家でした。寒い家を暖める為には莫大なエネルギーが必要ですが、省エネの為に寒さを我慢する生活は快適とは言えません。
その為、内部結露を起こさない適切な断熱工事によって住宅の断熱性と気密性を高めることが求められます。加えて、本来の日本の家の良さを失わないよう、木材はもちろん、畳、塗り壁、和紙、瓦などの呼吸する自然素材を使うことも大切です。