住宅性能と家づくり予算のバランス
家づくりに絶対に欠かせない住宅性能の中には、地震から家と家族を守る性能と、少ないエネルギーで快適な室内環境を調える断熱性、気密性があります。これらの性能は、高めれば高めるほど安全度や快適性が向上すると同時に、建築費が嵩み、予算オーバーに繋がることがあります。その為、家づくり予算全体とのバランスを見ながら、性能の高さを決めて行かなくてはなりません。
地震への備えにかける予算
住宅に十分な耐震性を持たせるための基本は構造計算です。予算を削る為に2階建ての木造住宅では構造計算をしないケースも少なくありませんが、その部分で予算を削ることはおすすめできません。構造計算に基づいた設計の家こそが、大地震が発生しても家族の命と財産を守れる家、十分な耐震性を備えた家です。
建築基準法に定められている耐震性能は1~4までの等級に分類されていますが、このうちの耐震等級1は、完璧に安心な耐震性能とは言えません。数十年に一度発生する震度5程度の地震では、住宅が損傷することはないが、熊本地震のような震度6~7程度の地震が発生した場合には、損傷するリスクを持っています。従って、耐震だけで地震への備えをする住宅にする場合には、構造計算に基づいた設計+建築基準法に定められている耐震等級2、又は3を備える必要があります。
耐震等級3は耐震等級2より耐震性が高いはずですが、構造計算をした耐震等級2の家と、構造計算をしていない耐震等級3の家を比較した場合、構造計算をした耐震等級2の家の方が確実な耐震性を持っています。
ここまでは絶対に予算を削れません。その上で、耐震性を備えた家にさらに地震への備えをプラスしたいという場合には、家づくり全体のバランスと相談しながら進めていく必要があります。
制震
制震とは地震の揺れを吸収し、受け流す働きをする装置です。耐震構造の建物に、揺れを増幅させない装置や特殊粘弾性体の制震ダンパーを取付け、地震の揺れを効果的に吸収し、建物のねじれや歪みを最小限に抑えます。耐震よりコストが嵩みますが、免震よりもコストを抑えられます。
免震
建物と地面との間に、免震層という柔らかい層を設けて免震構造にし、地震の揺れを建物に伝わりにくくするという方法で地震に備えます。地震の揺れが抑えられるため、地震の揺れが、家具に与えるエネルギーが大幅に軽減され、家具の転倒などの2次災害も防げます。ただ、制震よりもコストが嵩むため、予算オーバーの原因になる恐れがあります。
断震(エアー断震システム)
空気の力で地震時に家を浮かせ、揺れを1/10程度に軽減させるシステムです。4つの方法の中で、最も高い効果が得られる方法である上に、予算面から考えると免振装置よりコストを抑えられるという良さもあります。
構造計算をして等級2、または3を備える耐震構造にするだけでも、地震への備えはできます。ただ、その他の地震対策をプラスすれば、2次被害を防げるなどより安全な日常が手に入ります。予算のバランスを考えながら、耐震構造に何をプラスするか、又は耐震構造だけにするかを検討することが予算オーバーを回避することに繋がります。
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参考資料 新耐震基準の木造住宅の 耐震性能検証法 (新耐震木造住宅検証法)
室内の環境にかける予算
季節に応じた室温、きれいな空気が循環する換気の良さは、家族の健康にも住宅の耐久性にも欠かせない条件です。省エネという観点から考えると、小さなエネルギーで明るく快適な室温を創り出せるも必要です。これらの環境を調えられる家にする為には、断熱性と気密性を高めることの他に、自然のエネルギーと賢く付き合う設計にすることが求められます。
断熱への考え方
断熱材はグレードが高くなるほど断熱性が向上しますが、同時に建築費が嵩み、予算オーバーに繋がる恐れがあります。グレードの高い断熱材を使うに越したことはありませんが、住宅の断熱性を高める要素は断熱材だけではありません。
自然のエネルギーを活用することが、住宅の断熱性を底上げするからです。同じだけの断熱性を備えた家でも、冬に太陽の熱を十分に採り込める家は少ないエネルギーで家の中を暖められます。夏は日射遮蔽対策ができている家は、少ないエネルギーで家の中を涼しくできます。
自然エネルギーと賢く付き合える家は、窓が少なく、軒のない家に比べると同じ断熱性能であっても、家の中の環境を調えやすくなるのです。具体的には、吹き抜けや窓の配置で、窓の働きを最大限活かし、軒や袖壁で日射遮蔽できるといった家です。
家づくりプランの際には、単にグレードの高い断熱材を使って断熱性を向上させるという考え方ではなく、自然のエネルギーとの付き合い方を考えた間取りにすることが、予算オーバーを避けることに繋がります。
土地の条件と室内環境を調える間取りの関係
敷地の形状や敷地周辺の環境によっては、太陽の光や熱、地域を吹く風を採り入れられる家にすることが困難な場合もあります。隣家や道路との位置関係や、敷地周辺の建物の高さなどによって、間取りに制限が出てしまうのです。その為、家づくりの最も始めの段階である土地選びが極端に考えると予算オーバーに繋がってきます。
家族が望む日当たりや風通しの良さ、室温の快適さを実現できる間取りを実現できる土地ではなかった場合、理想を叶える為には特別な設計が必要になる場合があるからです。そうなってしまうと、建築費が嵩んでしまい、予算オーバーになってしまうことがあります。
土地の形状や面積、土地周辺の環境は土地を見ただけでわかります。しかし、その土地にどのような間取りの家が建てられるのかということは、家族だけでは判断が難しい部分です。その為、予算オーバーを抑える方法の一つとして、建築を依頼する工務店といっしょに土地探しをするという方法が非常に効率的です。
土地の条件によって建てられる家への制限が生まれ、その制限によって建築費が変わっていくからです。また土地の価格によっても、家づくり予算全体の中で建築費にかけられる予算が変わってきます。
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新築時の予算と暮らし始めてからのランニングコスト
住宅の断熱性と、冷暖房機器の選び方は、新築時の予算にも暮らし始めてからのランニングコストにも影響があります。新築時の予算を抑える為に断熱性をワンランク下げた場合、暮らし始めてからの電気代やガス代が嵩む恐れがあります。
また、冷暖房機器の選び方は間取りにも大きな影響があります。家の中の室温の差が少ない家にしたいという希望を叶える為には、全館空調が向いています。床からの輻射熱でゆったりと暖まる家にしたいという希望には床暖房を採り入れるという方法も考えられます。
全館空調や床暖房は、新築時に工事を進める必要があります。新築時に予算オーバーを起こさないよう、数年してから設けるというような方法をとると、新築時より工事費が嵩んでしまいます。
また、全館空調にする場合には、家の中の空気が循環する間取りを組み合わせる必要があるので、新築時に工事することと合わせて全館空調が効率よく効果を発揮する間取りにしなくてはなりません。断熱性の高さや冷暖房設備の選び方によって、新築時にかかる費用と、暮らし始めてから冷暖房にかかる費用が変わってきます。その為、新築時の予算のバランスを考えると同時に、暮らし始めてからの経済とも考え併せることが大切です。
家づくりの予算を考えていく時、住宅の性能や冷暖房の方法は、外観や内装のデザイン、暮らしやすい間取りなどとは違い、目に見えない分、判断が難しい部分ですしかもその効果は暮らし始めてみないと実感できません。その為、目に見える部分に予算をつぎ込み、目に見えない部分は予算オーバーを抑える為に削るという考え方になりやすいと思います。
ただ、家は1日のうちの半分以上の時間を過ごす場所であり、何十年もの長い期間暮らす場所です。居心地の良い室内環境と自然災害への備えのある場所にしておくことはとても大切なことです。やみくもに住宅性能を高める必要はありませんが、暮らし始めてからの家庭の経済と予算とのバランスをとりながら、最適な計画を進めていきましょう。
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参考資料 国土交通省 なるほど省エネ住宅