軒の役割・日射遮蔽で室内環境を変える
軒の最も大きな役割は日射遮蔽です。日射遮蔽によって室内環境が大きく変わります。
気温の高い日でも涼しく過ごせる
夏の強い陽射しを遮って、太陽熱が室温を上昇させないようにします。この役割をしっかり果たせるよう、季節によって変わる太陽の位置、家の向きと軒を設ける方角を考慮して、軒の深さを算出します。
断熱性の高い屋根や外壁と、日射遮蔽機能のある窓が持つ熱の出入りを防ぐ効果は、深い軒と併せることによって、よりその機能を発揮します。また、エアコンの室外機が軒下にあると、直射日光が当たらないので、太陽熱がエアコンの効率を低下させることを防ぎます。そ2つの効果で、冷房の効率が向上し省エネに繋がります。
参考サイト 経済産業省 資源エネルギー庁 住宅による省エネ
■ パッシブデザインは、自然の恵みを活かして、夏涼しく冬暖かい家、明るい陽射しの溢れる居心地の良い家にする設計の手法です。そんなパッシブデザインのメリットとデメリットについて考えていきましょう。
コラム パッシブデザインとは?アクティブデザインとの違いやメリットデメリット
明るさは損なわず眩しさは抑える
日射遮蔽ができる深い軒を設けると、家の中が暗くなるのでは?と心配される方もいらっしゃると思います。ただ、適切に割り出された軒の深さであれば、太陽の位置が高くなる季節には日射を遮蔽し、低くなる季節には明るく、暖かい陽射しを家の中に採り入れます。また、軒を深くしても、窓が適切に配置されていれば十分な明るさを取り込めます。
加えて、家の中に入ってくる光には、直接届く光の他に、反射して入ってくる間接光があります。この反射光が家の奥まで届くように設計されていると、ウッドデッキや縁側、フェンスなどに反射した光が、軒裏で再反射され、柔らかな光となって室内に入ってきます。
また、1日のうちには、窓からの陽射しが眩しく感じられる時間帯があります。ちょうど子どもが、宿題をする時間帯にぶつかることが多いのではないでしょうか?仕事をしている人にとっては、PCの画面に光が反射し見難くなることもあります。このような状況は、集中力を妨げ、勉強や仕事の効率を低下させてしまいます。深い軒のある家では、眩しさが抑えられ、集中力も目の疲れも抑えられます。
紫外線の悪影響を抑える
陽射しに含まれる紫外線は、室内にいる家族の皮膚に負担を与え、壁や畳、家具などを褪色させます。家の中にいる時には、日傘や帽子を使わないので日焼けしてしまいます。また、内装や家具は、素材によっては褪色だけではなく、ひび割れなど劣化の進行が早まることもあります。
参考サイト 国土交通省 気象庁 紫外線の性質
軒の役割・住宅が自然から受ける負担を減らす
太陽の陽射しや雨風は、人間の生活には欠かせない自然の恩恵ですが、同時に住宅の耐久性を低下させる原因にもなってしまいます。
紫外線による外壁の劣化を抑える
紫外線が外壁に与える影響は褪色だけではありません。外壁への紫外線の影響で最も怖い現象は、クラックと呼ばれるひび割れです。紫外線によって塗膜が劣化し、ひびが入ってしまうのです。このひび割れは、始めはそれほど深くありませんが、経年劣化や地震が発生した際には揺れによって深くなっていきます。
深くなったひびに雨水が侵入していくと、構造部にまで湿気が届いてしまい、構造部が腐朽する恐れがあります。構造部の腐朽が進めば、住宅の耐震性は大幅に低下してしまいます。軒には、外壁が紫外線から受ける負担を軽減する働きがあり、ひびの発生率を抑えます。外壁の劣化の進行を抑えるということは、外壁塗装のスパンが長くなるということにも繋がります。
開口部への雨風による影響を少なくする
窓や玄関ドアは、紫外線による褪色の他にも、雨や風で汚れやすい状態にありますが、軒があるとそれが抑えられます。また、軒下にある窓は、小雨程度なら開けておいても雨が降り込まず、軒下にある玄関は、雨の日に外出する際、濡れずに傘を開けます。
雨漏りのリスクを低下させる
台風や吹き降りの雨の際には、換気扇や通気口から雨水が侵入してしまうことがあります。室内や構造内部が高湿にしない為の換気扇や通気口であるにもかかわらず、その部分から雨水が侵入してしまうと、雨漏りのリスクが高くなってしまいます。外壁のひび割れからの雨水の侵入と同じく、水分が構造部に浸透してしまうと、耐震性が低下してしまいます。
■ 新築時の湿気対策が不十分な住宅は、早く劣化して耐久性が低くなり、地震に弱い家になるとともに、家族の健康を守れない家になってしまいます。
寛ぎスペースを生む
軒下にあるウッドデッキは、夏の午後でも歩けないほど熱くなることがありません。夏は子どもをビニールプールで遊ばせようとウッドデッキを設けたのに、陽射しが強すぎて遊ばせにくい…というような状況を回避できます。また、深い軒の下であれば、雨の日にはウッドデッキで遊ばせることもでき、洗濯物を干すこともできます。大人にとっても、休日や週末にゆったり過ごせるアウトドアリビングとして寛ぎのスペースとなります。
深い軒を設ける場合に考えておくべきこと
軒の有無や深さは、家を建ててから変えようとすると、大変な費用と手間がかかってしまいます。従って新築時に軒をつけるかつけないか、どの程度の深さにするかを決める必要があります。その際に考えておくべきことを確認していきましょう。
建築費への影響
軒のある家と軒のない家を比較すると、軒のある家は建築費が嵩みます。軒の浅い家と軒の深い家を比較すると、軒の浅い家の方が建築費を抑えられます。ただ、ここで考えておきたいことは、暮らし始めてからのランニングコストです。
冷房の効率が向上する為、家を建ててからの暮らしでは光熱費が節約できます。加えて、外壁塗装のスパンが長くなる分、メンテナンスの費用が抑えられます。新築時に嵩む費用と、暮らし始めてから倹約できる費用を考え併せてみることが大切です。
床面積への影響
土地には建ぺい率などの制限がある為、敷地いっぱいに住宅を建てることはできません。隣家との距離が近い、敷地面積の余裕がないというような状況で、1m以上の軒を設ける場合には、床面積が圧迫されることもあります。
軒の深い家は、暮らしの快適さや、住宅の耐久性を長くすること以外に、軒の作る影が外観に立体感を与え、落ち着きのある印象を生み出すという良さもあります。家の近くに立つと外観全体は見えなくなり、軒天の玄関周りの印象への影響が大きくなります。軒天にはスラグ石膏板やフレキシブルボードなどの合成建材や、金属板が使われることもありますが、無垢材の軒天には木目の美しさがあり、その質感が住宅に重厚感を与えます。
軒のある家にはたくさんの魅力がありますが、同時に家づくりの予算はバランスが大切です。軒による暮らしの変化や住宅の耐久性の向上と、予算の優先順位を考え併せた上で、軒の設け方を決めていきましょう。
■ 屋根の形や色は、戸建て住宅の外観デザインの印象に大きく影響します。ただし、それ以外に室内の空間や環境にも、屋根の種類と形は影響を与えます。平屋だけれど高い位置に窓が欲しい、夏の日射を遮って冷房費を節約したいなど、新しい家への希望は、屋根の選び方によって叶えられます。住宅の外観を向上させ、暮らしやすい家にするポイントを押さえておきましょう。